「親が自宅で歯の治療を受けたいけれど、費用はどのくらいかかるんだろう?」
「訪問歯科って医療保険と介護保険、どっちが使えるの?」
ご自宅や施設で歯科診療を受けられる「訪問歯科」を検討する際、このような保険に関する疑問や不安はありませんか?仕組みが複雑そうで、なんだか難しく感じてしまいますよね。訪問歯科では、目的によって「医療保険」と「介護保険」が使い分けられ、多くの場合で併用されます。
この記事では、訪問歯科における医療保険と介護保険の役割の違いや併用のルールを解説します。
目次
医療保険と介護保険の基本的な違い
訪問歯科でどちらの保険が使われるのかを理解するために、まずは「医療保険」と「介護保険」の根本的な役割の違いから見ていきましょう。この2つの保険は、目的が全く異なります。
医療保険は、病気やケガの「治療」のための制度です。一方、介護保険は要介護・要支援認定を受けた方が、自立した生活を送るための「介護サービス」を受けるための制度になります。そのため訪問歯科では、その日に行うことの目的によって、適用される保険が区別されます。
医療保険が適用されるケース
医療保険は、病気やケガを「治す」ことを目的とした制度です。
歯科医院で行う「虫歯を削る」「歯を抜く」「歯周病の処置をする」といった行為は、すべて病気を治すための治療です。これらは当然、医療保険の対象となります。
訪問歯科においても、ご自宅や施設で行う歯科治療そのものには、医療保険が適用されます。たとえば、以下のような処置が医療保険の対象です。
- 虫歯・歯周病の治療、抜歯などの歯科治療
- 入れ歯の作製・修理・調整
- 歯科医師が自宅へ伺うための基本的な診療費用(歯科訪問診療料)
歯科訪問診療料も、治療を目的とした往診であるため、医療保険の対象です。歯科医院で行う一般的な治療と同じ内容を訪問で受ける場合、その費用には医療保険が適用されると覚えておきましょう。
介護保険が適用されるケース
訪問歯科では、治療行為ではなく、お口の健康を維持・管理するための指導やケアに介護保険が適用されます。
これらの行為は、病気を治す治療というよりも、要介護状態の方が安定した在宅生活を送るための「支援(介護サービス)」と位置づけられています。
介護保険が適用されるのは、主に以下のようなケースです。
- 歯科医師による療養上の注意点や食事に関する指導、ケアマネジャーへの情報提供
- 歯科衛生士によるお口の清掃
- 嚥下(えんげ)機能のリハビリテーション
- ご家族への歯磨き指導
これらは、介護保険サービスの一つである「居宅療養管理指導(きょたくりょうようかんりしどう)」に該当します。「居宅療養管理指導」と聞くと難しく感じますが、簡単に言うと「専門家がご自宅に来てくれて、療養生活のアドバイスやケアをしてくれるサービス」のことです。
訪問歯科では医療保険と介護保険を目的別に「併用」します

訪問歯科では多くの場合、1回の訪問で医療保険と介護保険を併用します。
たとえば、歯科医師が訪問し、まず入れ歯の痛い部分を調整した(これは治療なので医療保険)。その後、歯科衛生士がご本人では難しい部分の歯垢を専門的に清掃し、ご家族にケアのコツを指導した(これは指導・ケアなので介護保険)。このように、1回の訪問の中で目的別に保険を使い分けて費用を計算します。
ただし、訪問歯科で介護保険を使用するには、以下の条件を満たしている必要があります。
- 要支援または要介護認定を受けていること
- 介護保険が適用されるご自宅や施設に住んでいること
- 介護保険証・介護保険負担割合証を持っていること
- 訪問歯科の診療を受け、歯科医師や歯科衛生士から指導や管理方法の説明を受けていること
ご自身やご家族が当てはまるか分からない場合も、ケアマネジャーや歯科医院に聞けばすぐに確認できますのでご安心ください。
訪問歯科の費用はいくら?自己負担額の目安
訪問歯科の費用は、医療保険と介護保険の2つの合計で決まります。ここでは、自己負担1割の場合を例に費用の目安を見ていきましょう。
医療保険の自己負担分
医療保険では、「ご自宅へ伺うための基本料(歯科訪問診療料)」と「その日に行った治療の費用」に対して自己負担が発生します。
保険証に記載の負担割合(1割~3割)は通院時と変わりません。
例えば、後期高齢者医療制度の1割負担の方の場合、1回の訪問(個人宅)でおおよそ1,100円程度が目安となります。これに治療費が加わるため、後期高齢者医療制度の1割負担の方の場合、1回の訪問あたりおおよそ1,500円~3,000円程度が目安となります。
介護保険の自己負担分
介護保険では、「居宅療養管理指導費」という費用がかかります。自己負担額(1割負担の場合)の目安は以下の通りです。
| 指導・ケアを行う専門職 | 1回あたりの自己負担額(目安 | 月の上限回数 |
|---|---|---|
| 歯科医師 | 約441円~約517円 | 2回まで |
| 歯科衛生士 | 約295円~約362円 | 4回まで |
交通費や出張費ですが、原則としてこれらの費用を請求されることはありません。治療内容に個人差があり、状況によって費用はことなりますが、1回の訪問で2,000~3,500円が目安です。また、生活保護を受給されている方や、障害者手帳などをお持ちの方は、上記の自己負担額がさらに軽減、もしくは無料になる場合があります。
ご自身が該当するか分からない場合は、ケアマネジャーさんや歯科医院に遠慮なくご確認ください。
訪問歯科の保険適用に関するよくある質問

ここでは、訪問歯科の保険適用に関するよくある質問を紹介します。
Q.介護保険を持っていないと訪問歯科は利用できませんか?
いいえ、介護保険がなくても訪問歯科は利用できます。訪問歯科を利用できる条件は、あくまで「病気や加齢などにより、ご自身で歯科医院への通院が困難であること」です。介護認定の有無は必須条件ではありません。
介護保険がない場合、介護保険でカバーされる「指導・ケア」の部分が自費になるだけで、治療自体は医療保険で受けられます。
Q.治療はせず、お口のケアだけをお願いすることは可能ですか?
はい、可能です。お口を清潔に保つことは、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)の予防にもつながるため、継続的なケアはとても大切です。
介護保険をお持ちであれば「居宅療養管理指導」として、費用負担を抑えてケアを受けられます。介護保険をお持ちでない場合でも、歯科医院によっては自費サービスとして同様のケアを提供していることもありますので、まずはお気軽にご相談ください。
まとめ
今回は、訪問歯科で利用する「医療保険」と「介護保険」の違いについて解説しました。
最後に大切なポイントをもう一度おさらいしましょう。
- 治療が目的の行為(虫歯、抜歯、入れ歯修理など)には医療保険
- 指導・ケアが目的の行為(口腔ケア、リハビリなど)には介護保険
- 多くの場合、1回の訪問で両方の目的を果たすため、2つの保険は併用される
- 介護保険がなくても医療保険だけで訪問歯科を利用することは可能
保険の仕組みは複雑に感じるかもしれませんが、基本的な役割分担が分かれば、費用のイメージもつきやすくなるはずです。
それでも、ご自身やご家族のケースではどうなるのか、費用はいくらくらいなのか、不安な点は残るかと思います。そんな時は、担当のケアマネジャー、もしくはかかりつけの歯科医院に「訪問歯科の利用を考えていて、保険のことで相談したい」と伝えてみましょう。