「子どもの歯並び、いつから矯正を始めたらいいの?」
「ワイヤー、マウスピース…種類が多すぎて、うちの子にどれが合うのかわからない」
「矯正を嫌がらずに続けてくれるか心配」
このような疑問や不安はありませんか?
小児矯正の目的は、噛み合わせの土台となる「あごの成長」を正しく導くことです。特に、あごの骨の成長を利用できる時期には限りがあります。タイミングを逃さず、お子様の症状や年齢、性格にあわせて矯正装置を選択することがポイントです。
本コラムでは、小児矯正の目的から治療の段階、代表的な装置の種類と特徴、お子様にぴったりの矯正方法を選ぶ3つのポイントまで解説します。
目次
小児矯正の目的は「あごの健やかな成長」を促すこと

小児矯正の目的は、歯をきれいに並べることだけではありません。噛み合わせの土台となる「あごの骨の成長」を正しく導き、永久歯がきちんと生えそろうためのスペースを確保することです。
そして小児矯正は、あごの成長をコントロールする「1期治療」と歯並びを整える「2期治療」の2段階にわけられます。
1期治療:小学校低学年〜中学年が中心
1期治療は、あごの成長が活発な6歳〜12歳頃に行う「骨格の矯正」で、将来の美しい歯並びのための基礎工事にあたります。
この時期は、比較的小さな力で効果的にあごの幅を広げたり、上下のあごの成長バランスをコントロールしたりすることが可能です。永久歯が生えそろう前に土台を整えておくことで、後々の本格的な矯正治療の負担を大きく減らせる可能性があります。
実際に、1期治療であごのスペースを十分に確保できた場合、2期治療で健康な歯を抜く必要がなくなったり、そもそも2期治療自体が不要になったりするケースもあります。
2期治療:永久歯が生えそろってからが中心
2期治療は、すべての永久歯が生えそろった後(おおむね12歳以降)に行う「歯の矯正」です。1期治療で作った土台の上に、一本一本の歯をきれいに並べる最終仕上げになります。
1期治療はあくまで骨格の問題を改善するのが主な目的であるため、歯の細かい傾きやねじれまでは完全にコントロールできない場合があります。そのため、2期治療で歯並びの調整を行い、理想的な噛み合わせを完成させるのです。
1期治療がしっかりできていれば、2期治療はより短期間でシンプルな装置で済みます。
小児矯正の代表的な装置と特徴

小児矯正で使われる装置には種類があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。ここでは、代表的な装置と特徴を紹介します。
【1期治療】あごの成長を促す装置
1期治療で使われる装置は、「取り外しできる装置」「取り外しできない装置」「お口の外で使う装置」の3つがあり、それぞれ異なる方法であごの成長をサポートします。
取り外しできる装置(可撤式)
取り外しできる装置は、食事や歯磨きの際に外せるため衛生的でお手入れがしやすい反面、その効果は本人が毎日決められた時間きちんと装着できるかにかかっています。
【装置の種類】
- プレオルソ/マイオブレース(マウスピース型)
柔らかいシリコン素材でできており、主に日中1時間と就寝時に装着します。舌の正しい位置や口呼吸の改善など、お口周りの筋肉の機能を整える「筋機能療法」の効果も期待できます。 - 拡大床(しょうかくしょう/プレート型)
レジン製のプレートとネジでできた装置。保護者の方が定期的に中央のネジを回すことで少しずつプレートを広げ、あごの骨を側方に拡大し、歯が並ぶスペースを作ります。
- バイオネーター/FKO(機能的矯正装置)
主に出っ歯や受け口の治療に用いられます。お口周りの筋肉の力を利用して下あごの成長を促したり、逆に抑制したりして、上下のあごの成長バランスを整えます。 - インビザライン・ファースト
マウスピース型矯正装置の子供版です。あごの拡大と歯の移動を同時に行えるのが特徴です。
取り外しできない装置(固定式)
取り外しできない固定式の装置は、24時間継続的に力をかけられるため、確実性が高いのがメリットです。一方で、装置の周りに汚れがたまりやすく、虫歯のリスクが高まるため、丁寧な歯磨きが必要になります。
【装置の種類】
- 急速拡大装置
上あごの骨を広げるための装置です。装置中央のネジを1日に1〜2回、保護者の方が専用の器具で回して使用します。 - リンガルアーチ/クワドヘリックス
歯の裏側に装着するワイヤーの装置です。奥歯が前にずれてこないように固定するストッパーの役割を果たしたり、歯列をゆっくりと横に広げたりする目的で使われます。外からはほとんど見えません。
お口の外で使う装置(顎外固定装置)
顎外固定装置は、主にご自宅にいる時間や就寝時に使用し、頭や首を支えにして、お口の中の装置だけでは難しい骨格のズレを改善します。
【装置の種類】
- ヘッドギア
上あごの過剰な成長を抑えたり、奥歯を後ろに動かしたりする目的で、出っ歯の治療に使われます。頭からかぶるヘッドキャップと、お口の中の装置をつなげて使います。 - チンキャップ
下あごの先端にカップを当て、下あごが前方に成長するのを抑える装置で、受け口の治療に用いられます。 - 上顎前方牽引装置(じょうがくぜんぽうけんいんそうち)
上あごの成長が不十分な受け口の治療に使います。おでことあごに当てたフレーム(マスク)から、お口の中の装置にゴムをかけて、上あごを前方に引っ張り出すように成長を促します。
【2期治療】歯並びを整える装置
永久歯が生えそろった後の2期治療では、大人の矯正と同様の「ワイヤー矯正」や「マウスピース矯正」を用いて、歯並びの最終的な仕上げを行います。
【装置の種類】
- ワイヤー矯正(表側・裏側)
歯の表側または裏側に「ブラケット」という小さな装置を一つずつ付け、そこにワイヤーを通して歯を動かす方法です。裏側矯正は目立たないというメリットがあります。 - マウスピース矯正(インビザラインなど)
透明なマウスピースを、1〜2週間ごとに新しいものに交換していくことで歯を動かす方法です。目立ちにくく、食事や歯磨きの際に取り外せる手軽さが魅力ですが、適応できる症例には限りがあります。
お子様におすすめの矯正方法は?選び方3つのポイント

治療の主役はあくまでお子様本人であり、本人のモチベーションが治療の結果を左右します。矯正方法を選ぶ際は、「症状」「お子様の性格」「ライフスタイル」という3つの視点から総合的に判断しましょう。
ポイント1:歯並びの症状から選ぶ
お子様の歯並びのタイプによって、適切な装置は異なります。
例えば、あごが狭い「ガタガタ」には拡大床や急速拡大装置、上あごが出ている「出っ歯」にはヘッドギアやバイオネーターが第一選択となることが多いです。装置は、歯科医師が精密検査の結果に基づいて提案します。
ポイント2:お子様の年齢と性格から選ぶ
治療をスムーズに進めるためには、本人が前向きに取り組める装置を選ぶことが重要です。
特に、自分で取り外しができる装置の場合、本人の協力なしでは効果が得られません。また、矯正治療は数年にわたる長期間の付き合いになるため、お子様のモチベーションをいかに維持するかという視点も必要になります。
例えば、責任感が強く、言われたことをきちんと守れるお子様であれば、取り外し式の装置でも問題なく進められるでしょう。しかし、忘れっぽかったり、面倒くさがりだったりするお子様の場合は、固定式の装置の方が向いているかもしれません。
お子様の気持ちを尊重し、「これなら頑張れそう」と本人が思える方法を一緒に探してあげることが大切です。
ポイント3:ライフスタイルから選ぶ
矯正装置がお子様の習い事やスポーツなどの活動を妨げないか、ライフスタイルに合わせて検討することも忘れてはならないポイントです。
例えば、柔道やラグビー、サッカーなど、人と接触する機会の多いスポーツをしている場合、お口の中を傷つけるリスクのある表側のワイヤー矯正は避けた方が安全かもしれません。事前に生活習慣を歯科医師に詳しく伝えましょう。
お子様の歯並びが気になったら早めに相談を

お子様の歯並びについて少しでも気になることがあれば、できるだけ早く専門の歯科医院に相談しましょう。
特にあごの成長を利用する1期治療には「タイムリミット」があります。あごの骨の成長が旺盛な時期は限られており、タイミングを逃してしまうと、治療の選択肢が狭まったり、将来的に抜歯が必要になるなど治療が大掛かりになったりする可能性が高まります。
例えば、小学校低学年で受け口の傾向が見られた場合、早期に治療を開始すれば上あごの成長を促すことで改善できる可能性が高いです。しかし、成長がほとんど終わってしまう高校生頃になってからでは、外科手術を伴う矯正治療が必要になるケースもあります。
早めに相談すれば、現時点で治療が必要なのか、あるいはしばらく経過観察で良いのか、もし治療するならいつ頃から始めるのがベストなのか、といったアドバイスを受けられ、的確な見通しを立てることができます。
まとめ|タイミングを逃さず、お子様の症状・年齢・性格・ライフスタイルで矯正を選びましょう
小児矯正は、あごの成長をコントロールする「1期治療」と、歯並びを整える「2期治療」があります。治療法には、取り外しのできるマウスピースやプレート装置、固定式のワイヤー装置など、さまざまです。そして、どの装置が最適かは、お子様の歯並びの症状だけでなく、年齢や性格、ライフスタイルによっても異なります。
あごの成長を利用できる1期治療は、始められる時期が限られています。タイミングを逃すと治療の選択肢が狭まる可能性もあるため、歯並びが気になるなと感じたら、まずは歯科医院へ早めに相談しましょう。