病院を退院して自宅に戻ったものの、「食事のたびにむせてしまう」「どう進めればいいのか分からない」そんな不安を抱えていませんか。
嚥下障害があっても、正しい手順を踏めば在宅でリハビリを続けることは十分に可能です。在宅でのリハビリは、闇雲に練習するのではなく、まずはお口の仕組みを知り、間接訓練から段階的に進めていくことになります。
そこで本コラムでは、在宅嚥下リハビリの流れを5つのステップで紹介します。
目次
在宅嚥下リハビリを始める前に押さえておきたい基本
リハビリに取り組む前に、まず「飲み込む」という動作がどのような仕組みで成り立っているのかを知っておきましょう。
食べ物が喉を通る仕組み
私たちが食べ物を口に入れてから胃に届くまで、以下の段階を経ています。
- 口に入れる
- 噛む
- 喉に送る
- 飲み込む
- 食道へ
最初は「口に取り込む」段階です。スプーンやお箸で口元に運ばれた食べ物を唇でとらえます。次に「噛む」段階。舌と頬、歯を使ってすりつぶし、唾液と混ぜ合わせて飲み込みやすい塊にまとめます。
ここからがポイントです。舌が塊を喉の奥へぐいっと押し込むと、喉仏がグッと上に持ち上がり、気管の入り口にふたをする仕組みが働きます。そして塊は食道の入り口を通過し、ぜん動運動で胃へと運ばれていきます。こうした一連の動きは0.5秒ほどの短い時間です。ほぼ無意識のうちに完了しています。
ただし、加齢や病気によってこの連携がうまくいかなくなると、食べ物がスムーズに通らなくなってしまうのです。

「むせ」はなぜ起こる?
気管に異物が入ると、気管の粘膜にあるセンサーが反応し、強い咳を起こして異物を外に出そうとします。むせること自体は正常な反応であり、気管を守るために必要な機能です。
しかし注意が必要なのは、「むせないから大丈夫」とは限らないという点です。高齢者や神経疾患のある方の中には、感覚が鈍くなり、異物が入っても咳が出ない方がいます。これを「不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)」と呼びます。知らないうちに食べ物や唾液が気管に流れ込み、やがて誤嚥性肺炎を引き起こすリスクがあります。
在宅嚥下リハビリの流れを5つのステップで解説

嚥下リハビリには大きく分けて2種類あります。食べ物を使わずに筋肉や神経を鍛える「間接訓練」と、実際に食べ物を口に入れて練習する「直接訓練」です。在宅では、まず安全な間接訓練から始め、評価を経て直接訓練へ進むのが基本の流れになります。
ステップ1:専門家に相談して嚥下機能を評価してもらう
まずは訪問歯科、訪問リハビリ、かかりつけ医などに相談し、現在の嚥下機能を正確に把握することから始まります。
評価の方法としては、言語聴覚士(ST)による水飲みテストやフードテストのほか、より詳しく調べる場合はVE検査(嚥下内視鏡検査)やVF検査(嚥下造影検査)が行われることもあります。VE検査は鼻から細いカメラを入れて喉の動きを直接観察する方法、VF検査はX線を使って食べ物が通る様子を確認する方法です。在宅では難しい検査もありますが、訪問歯科によってはVE検査を自宅で行えるケースもありますので専門家への相談がおすすめです。
これらの検査によって「どの段階に問題があるのか」「どの程度の食事形態なら安全か」が分かります。
ステップ2:目標を決めてリハビリ計画を立てる
嚥下機能の評価が終わったら、目標を設定します。
「食事中のむせを減らす」「ペースト食から刻み食へステップアップする」「胃瘻に頼る量を減らし、口から食べる量を増やす」など目標は人それぞれです。
言語聴覚士や訪問看護師と一緒に、3か月後・半年後のゴールを設定し、そこへ向かうための計画を立てていきます。
ステップ3:間接訓練で嚥下に必要な筋肉を鍛える
ここからは、実際に身体を動かす段階です。間接訓練は食べ物を使わないため、誤嚥のリスクが低く、在宅でも安心して取り組めます。代表的なものに「嚥下体操」があります。首をゆっくり回したり、肩を上げ下げしたりと純な動きに見えますが、飲み込みに関わる筋肉をまんべんなく刺激してくれます。
中でも「パタカラ体操」は、唇・舌・喉の動きを意識的に使う訓練です。「パ」は唇を閉じる力、「タ」は舌を上あごにつける力、「カ」は喉の奥を動かす力、「ラ」は舌を丸める力を鍛えます。毎食前に10回ずつ発声するだけでも、継続すれば効果が期待できるでしょう。
ステップ4:直接訓練と食事の工夫で食べる力を高める
間接訓練を続け、「直接訓練を始めても大丈夫」との判断が出たら、食べ物を使った練習に進みます。
嚥下機能に合わせて、ペースト状・ムース状・やわらかく刻んだもの・普通食とステップを踏んでいきます。市販の嚥下調整食品も種類が増えており、主食からおかず、デザートまで幅広く揃っているので、試してみるのも一つの手です。
ステップ5:定期的に評価を受けて計画を見直す
訪問リハビリや訪問看護を利用している場合は、担当者に経過を報告し、必要に応じて訓練内容や食事形態を調整してもらいましょう。「最近、むせの回数が減った」「逆に、以前より疲れやすくなった気がする」といった小さな変化も、遠慮なく伝えてください。
在宅嚥下リハビリに関するよくある質問
ここからは、在宅嚥下リハビリに関するよくある質問をQ&A形式でお答えします。
Q. 嚥下リハビリは毎日続けないと効果がない?
継続は力になりますが「1日も休んではいけない」と思い詰める必要はありません。
嚥下に関わる筋肉も、身体の他の筋肉と同じように、使わなければ衰えます。特に高齢の方は、数日間動かさないだけでも機能が低下しやすい傾向があります。ですから、できるだけ毎日、少しでも訓練を続けることが理想です。しかし、体調がすぐれない日や、気持ちが乗らない日もあるでしょう。そんなときは、「今日は首を回すだけにしよう」「口を動かすだけでいい」と、ハードルを下げてください。できる範囲で長く続けていきましょう。
Q. 胃瘻を使っていても口から食べる練習はできる?
胃瘻(いろう)を使って栄養をとっている方でも、嚥下リハビリを行えるケースは少なくありません。嚥下機能が一定の水準にあれば、ゼリーやアイスクリームなど、ごく少量の直接訓練が許可されることもあります。
Q. 家族だけでリハビリを進めても問題ない?
間接訓練は、ご家族が付き添いながら行っても安全です。嚥下体操やパタカラ体操、唾液腺マッサージなどは、動画や資料を参考にすれば自宅で十分に実践できます。ただ、直接訓練は、専門職の評価を受けてから進めることを強くおすすめします。嚥下機能は日々変化しますし、誤嚥のリスクを正確に見極めるには専門的な知識が必要です。
まとめ|専門家による正しい評価からリハビリ計画を立てましょう

在宅での嚥下リハビリは、正しい評価に基づき「間接訓練」で土台を作り、安全を確認しながら「直接訓練」へとステップアップしていくことが大切です。
しかし、自己判断でのトレーニングや食事形態の変更は、誤嚥(ごえん)のリスクを伴うため注意が必要です。まずは歯科医師に相談し、VE検査(嚥下内視鏡検査)などで今の飲み込む力を正確に評価してもらうことから始めましょう。
訪問歯科診療に対応している歯科医院であれば、ご自宅で検査を受けられるだけでなく、一人ひとりの状態に合わせたリハビリ計画を提案してくれます。
「最近、飲み込みにくくなったかも?」と感じたら手遅れになる前に、まずは一度、嚥下リハビリの経験が豊富な歯科医師や言語聴覚士に相談しましょう。