「歯が痛むので神経を取りましょう」「根の中の治療が必要です」と言われ、不安を感じた経験はありませんか。根管治療は、歯を抜かずに残すための最後の砦ともいわれる重要な治療です。一方で治療回数が多く、再治療が必要になりやすい難しい治療でもあります。
本コラムでは、根管治療の目的と流れ、成功率を高めるためのポイントを分かりやすく解説します。
目次
根管治療とは?歯の神経を守るための治療

根管治療とは、歯の内部にある神経や血管が通る細い管(根管)を清掃・消毒し、薬剤を緊密に詰めて密閉する治療のことです。
歯の中心部には「歯髄」と呼ばれる組織があり、神経と血管が含まれています。虫歯が深く進行して歯髄まで達したり、外傷で歯髄が損傷したりすると、強い痛みや感染を引き起こします。このようなとき、歯を抜かずに残すために行うのが根管治療です。歯髄を取り除き、根管の中を徹底的に消毒し、再感染を防ぐために緊密に薬を詰めることで、自分の歯を機能させ続けることを目指します。
根管治療は「歯内療法(エンドドンティクス)」とも呼ばれ、歯科治療のなかでも非常に繊細で技術が問われる分野です。根管は1本の歯に1〜4本以上存在し、太さは0.3mm以下、形は曲がりくねっていることも多いため、肉眼での治療には限界があります。
近年は「ラバーダム防湿」「マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)」「ニッケルチタンファイル」など、精度を高める器材や技術が普及し、成功率の向上に寄与しています。
根管治療が必要になる5つのケース
では、具体的にどのような場合に根管治療は必要なのでしょうか。ここでは根管治療が必要になる代表的なケースをご紹介します。
① 虫歯が神経まで進行した場合
虫歯が歯の神経まで達すると、冷たいものや熱いものがしみたり、何もしなくてもズキズキ痛んだりすることがあります。夜眠れないほど強い痛みが出ることも少なくありません。このような状態では、感染した神経を取り除き、歯を残すために根管治療が必要になります。
② 歯をぶつけて神経が死んでしまった場合
転倒やスポーツ、交通事故などで歯を強くぶつけると、一見問題がないように見えても、神経がダメージを受けていることがあります。時間がたってから歯の色が黒ずんだり、噛むと違和感や痛みが出たりする場合は、神経が死んでいる可能性があり、根管治療が必要になることがあります。
③ 歯ぐきに膿がたまっている場合
歯の根の先に細菌が広がると、歯ぐきに膿がたまり、腫れや痛みを引き起こすことがあります。このまま放置すると炎症が悪化するため、根の中をきれいに掃除して細菌を取り除く根管治療を行います。
④ 一度治療した歯が再び感染した場合
以前に根管治療を受けた歯でも、時間の経過とともに細菌が入り込み、再び感染してしまうことがあります。再治療は初めての治療より難しくなることもありますが、できる限り歯を残せるよう治療を進めます。
⑤ 神経を残せないほど虫歯が進行している場合
虫歯が深くまで進行している場合は、神経を残す治療が難しいことがあります。そのような場合は、感染した神経を取り除く根管治療を行い、歯をできるだけ長く使える状態に整えます。
根管治療の流れを4ステップで解説

根管治療は、感染した神経や細菌を取り除き、歯を長く使えるようにするための治療です。症状によって多少異なりますが、一般的には次の4つのステップで進めます。
ステップ1 お口の状態を詳しく調べる(診査・診断)
まずはレントゲンや必要に応じて歯科用CTを撮影し、歯の根の状態や炎症の広がりを確認します。さらに、歯の反応や痛みの有無なども確認し、「根管治療が必要かどうか」「どのような治療を行うか」を判断します。この際に、おおよその治療期間や来院回数についてもご説明します。
ステップ2 感染した部分を取り除く
治療では麻酔を行ったあと、虫歯や古い詰め物を取り除き、感染した神経へアクセスできる状態をつくります。必要に応じて「ラバーダム」というゴム製のシートを装着し、唾液に含まれる細菌が歯の中に入らないようにしながら治療を進めます。
ステップ3 歯の根の中をきれいに洗浄・消毒する
細い専用の器具を使って、歯の根の中にある感染した神経や細菌を丁寧に取り除きます。その後、洗浄液や薬剤で根の中をしっかり消毒し、細菌をできるだけ減らします。感染の程度によっては、この工程を数回繰り返し、炎症が落ち着いたことを確認してから次のステップへ進みます。
ステップ4 根の中を密閉し、被せ物で歯を守る
根の中がきれいになったら、細菌が再び入り込まないよう専用の材料で隙間なく密閉します。その後、歯を支える土台を作り、最後に被せ物を装着して、噛める状態へと回復させます。
治療期間の目安
根管治療に必要な通院回数は、歯の状態によって異なります。
- 前歯:約3〜4回
- 奥歯:約4〜6回
感染が広がっている場合や再治療の場合は、さらに回数が必要になることもあります。
根管治療中・治療後の痛みについて
根管治療中の痛みは、麻酔が効きにくいケースを除き、ほとんど感じないことが多いです。とはいえ、急性炎症や根尖周囲に膿が溜まっている場合は麻酔が効きづらいことがあり、その際は炎症を抑える処置を先に行ってから治療を進めます。
治療直後に「噛むと響く」「ジンジン痛む」といった症状が出ることがありますが、多くは数日〜1週間で軽快します。これは治療によって根の先の組織が一時的に刺激を受けたために起こるもので、必ずしも治療失敗を意味しません。
ただし、痛みが増強する、腫れがひどくなる、発熱があるといった場合は、自己判断せず受診してください。膿が溜まっている場合は排膿処置で症状が大きく改善することがあります。
根管治療の成功率を高める3つのポイント
根管治療の成否は、技術・器材・術者の経験に加えて、患者さんの協力にも左右されます。
1つ目は「ラバーダム防湿の徹底」です。治療中に唾液中の細菌が根管内に入らないようゴム製のシートで歯を隔離する処置で、欧米では標準的に用いられます。当院でも適応症例に対して積極的に使用しています。
2つ目は「マイクロスコープによる視認性向上」です。20倍前後の拡大視野により、肉眼では見えない根管の入り口や破折線、汚染物質を確実に取り除くことができます。
3つ目は「治療を中断しない」ことです。仮の蓋のままで来院が空くと、その隙間から再感染が進む可能性があります。お忙しい方も、できる限り推奨スケジュールで通院いただくことが、長期予後を左右します。
再治療(再根管治療)になりやすい原因

根管治療を一度受けたあとに再び痛みや腫れが出る場合、再治療が必要になります。
主な原因として挙げられるものを2つ紹介します。
ひとつは、初回治療時に根管の清掃が不十分だったケースです。複雑な根管の側枝や、隠れた根管(MB2など)が見落とされると、細菌が残り続けることがあります。
もうひとつは、被せ物と歯の境目から細菌が侵入する「コロナルリーケージ」です。被せ物が外れたり隙間が生じたりすると、唾液中の細菌が根管内へと進入し、再感染を引き起こします。
再根管治療は初回治療より難易度が高く、成功率もやや下がります。それでも歯を残せる可能性がある限り、再治療を検討する価値があります。
根管治療後に必要な被せ物について
根管治療を終えた歯は、神経と血管がなくなることで弾力性を失い、もろくなります。そのため、被せ物で歯全体を覆う「クラウン」を装着するのが原則です。詰め物だけで仕上げると、咬合力で歯根が割れる「歯根破折」のリスクが上昇します。
被せ物には保険適用の素材(銀歯・CAD/CAM冠)と、自費のセラミック・ジルコニアなどの選択肢があります。審美性、強度、二次虫歯リスクを総合的に考えて選びましょう。長期的に歯を守るためには、噛み合わせや清掃性に配慮した被せ物選びが重要です。
根管治療をできるだけ避けるための予防

根管治療は歯を残すために欠かせない治療ですが、一度神経を取り除いた歯は健康な歯に比べてもろくなり、将来的に割れたり、抜歯が必要になったりするリスクが高くなります。そのため、できるだけ神経を残したまま治療できることが理想です。
虫歯は早期発見・早期治療が大切
神経を守るために最も重要なのは、虫歯を早い段階で見つけることです。虫歯は初期のうちは自覚症状がほとんどありません。痛みを感じる頃には、すでに虫歯が神経の近くまで進行しているケースも少なくありません。
定期検診でレントゲン撮影やお口のチェックを受けることで、小さな虫歯のうちに発見・治療できれば、神経を抜かずに済む可能性が高まります。
神経を残せるケースあり
以前は、神経の近くまで虫歯が進行すると根管治療が必要になることが一般的でした。しかし近年では、虫歯の状態によっては「歯髄温存療法」と呼ばれる治療によって、神経を残せる場合があります。
専用の薬剤を使用して神経を保護することで、深い虫歯でも根管治療を避けられる可能性があります。ただし、すべての症例に適応できるわけではないため、歯の状態を確認したうえで治療方法を判断します。
毎日のセルフケアで虫歯を予防する
虫歯を防ぐことは、結果的に根管治療を防ぐことにもつながります。
毎日の生活では、次のようなセルフケアを意識しましょう。
| セルフケア | 期待できる効果 |
|---|---|
| フッ素入り歯磨き粉を使う | 歯を強くし、虫歯になりにくくする |
| デンタルフロス・歯間ブラシを使 | 歯ブラシだけでは落とせない汚れを除去できる |
| 間食を減らす | お口の中が酸性になる時間を短くできる |
| よく噛み、唾液を増やす | 唾液の働きで歯の再石灰化を助ける |
間食が多いと虫歯になりやすい理由
食事やおやつを食べると、お口の中は酸性になり、歯の表面が少しずつ溶け始めます。その後、唾液の働きによって歯は修復(再石灰化)されますが、間食や甘い飲み物を何度も口にすると、歯が回復する時間が足りず、虫歯が進行しやすくなります。
そのため、「だらだら食べ」や「ちびちび飲み」を避け、食事と間食の時間を決めることが虫歯予防のポイントです。
フッ素入り洗口液を取り入れるのもおすすめ
毎日の歯磨きに加えて、フッ素入りの洗口液(マウスウォッシュ)を使用するのも効果的です。特に就寝前に使用すると、睡眠中に歯の表面へフッ素が作用しやすくなり、虫歯予防につながります。なお、フッ素濃度は子ども用と大人用で異なるため、年齢に合った製品を選ぶようにしましょう。
根管治療に関するよくある質問
Q. 根管治療は何回も通院が必要ですか?1回で終わることはできますか?
根管治療は、歯の根の中の細菌をしっかり取り除き、炎症が治まったことを確認しながら進めるため、通常は複数回の通院が必要です。ただし、感染が軽く症状も安定している場合は、1回の治療で根の中をきれいにし、その日のうちに薬剤を詰める「ワンビジット根管治療」が行えるケースもあります。
しかし、すべての症例で適応できるわけではありません。歯の状態や感染の程度を確認したうえで、歯科医師が最適な治療方法を判断します。
Q. 根管治療をした歯はどれくらい長持ちしますか?
根管治療をした歯でも、適切な治療を受けたうえで、精度の高い被せ物を装着し、定期的なメインテナンスを続けることで、10年以上問題なく使えるケースは珍しくありません。一方で、被せ物のすき間から細菌が入り込んだり、噛み合わせの負担が大きかったりすると、再び感染を起こして再治療や抜歯が必要になることもあります。根管治療後も歯を長持ちさせるためには、毎日のセルフケアに加え、定期検診を受けることが大切です。
まとめ|根管治療で大切な歯をできるだけ長く残しましょう

根管治療は、自分の歯を抜かずに残すための非常に大切な治療です。治療には時間と回数がかかりますが、丁寧な処置と治療後の被せ物の選択、そして治療後も含めた継続的なメインテナンスによって、長期にわたって歯を機能させることが可能です。
服部歯科医院では、ラバーダム防湿やマイクロスコープなどを活用し、可能なかぎり再感染を防ぐ精密な根管治療に努めています。「歯の痛みが続く」「以前治療した歯が痛む」「他院で抜歯と言われたが歯を残したい」という方は、お早めにご相談ください。